肉の基礎知識

〜 より美味しい焼肉を食べるために 〜


みなさん知っているようで意外と知られてない肉の知識。
ここでは食肉業界の裏事情?も含めつつ、
日々思うことを書いて行きたいと思います。


コラムNo.1 【和牛って何?】

突然ですが、「黒毛和牛」と聞いて何を想像しますか?
ビッシリとサシの入った、いわゆる「霜降り」のお肉ですか?
あるいはブロックのように厚いステーキですか?

ちょっと待ってください。
それって「黒毛和牛」で良いんでしょうか?

「黒毛和牛」を高級な肉だと思っている方は意外に多いのですが、
一般的に高級、あるいは美味しいとされる上記のような肉は
「黒毛和種」という品種の牛の肉の事で、
「黒毛和牛」というのは全く別のものなんですよ。

「黒毛和種」というのは日本古来の牛の品種(※)の1つですが、
( ※ 黒毛和種、褐毛和種、無角和種、日本短角種 の4品種 )
「黒毛和牛」「黒毛和種の肉質」と「ホルスタインの大きさ」の両方を目指して
「黒毛和種のオス」と「ホルスタインのメス」を掛け合わせたもの
で、
交雑第一種、通称 "f1(エフワン)"と呼ばれるものです。
f1というのはFirst Filial Generationの略ですが、要するに雑種です。

純粋な「黒毛和種」に対して f1の肉質は大分劣ります。
全体的に大味でさっぱりしている . . . といえば聞こえは良いですが、
肉本来の味が少なく、鼻に抜ける匂いも舌に残る甘みも
和牛のそれと比べると段違いに劣るというのは食べてみればすぐに分かります。

「国産牛を食べよう!」と大々的に売り出した「Jビーフも」も
簡単に言えばただの雑種の肉にしか過ぎません。
名称に混同させられることなく、美味しいものは自分の舌で選んでください。


コラムNo. 2 【特選神戸牛 . . . ?】

日本が世界に誇る神戸ビーフ。
テレビで何度も紹介されているのでみなさん既にご存知ですね。

「今日は記念日だから特選の神戸牛でも食べようか!」
と意気込んで肉屋さんに行ったのは良いものの、
「当店に特選神戸牛はありません」と言われたらどうしますか?

もちろんそんな事を敢えて言う肉屋さんは無いと思いますが、
このお客さんは大きなミスを犯している事に気が付いていません。

先祖代々兵庫県の血統を持つ牛で、兵庫県内で育てられ、
兵庫県の食肉センターで屠畜され、
枝肉の格付けでA4-6(あるいはB4-6)というランク以上の肉

「神戸肉」、あるいは「神戸ビーフ」と言うのですが、
これに対し、「神戸牛」という肉の定義は明確にされておらず、
「兵庫県産の牛で神戸肉(神戸ビーフ)ほどではないもの」
なんとなく「神戸牛」と呼んでいるのが現時点での慣習になっています。
簡単に言うと「神戸牛」という肉は無いようなものなのです。

筆者が「特選神戸牛」と書いてあるのを見て首をかしげてしまうのはこういう訳です。


コラムNo. 3 【神戸肉は美味しいのか

「神戸肉は美味しいのか」なんて
ある意味、兵庫県の食肉業界に喧嘩を売るようなタイトルですね。
でも僕のごく個人的な意見を敢えて言わせていただきたいと思います。

「神戸肉の時代は終わった」

先ほど「先祖代々兵庫県産の血統を持つ牛だけが神戸ビーフになる」
と書きましたが、実はそれこそが神戸牛の時代を終わらせた原因なのです。

先祖代々兵庫県産の牛を交配させているという事は、
簡単に言うと近親相姦の関係にある牛が出てくるという事です。
人間が近親相姦をした場合には
奇形児や発育時に問題のある子供が生まれる可能性があるようですが、
牛の場合のそれは肉質の低下という形になってハッキリと現れます。
個人的には15年ほど前から兵庫県産の牛の肉質の低下を主張していたのですが、
多くの人間は「神戸肉」ブランドに対する絶対的な信仰心や
兵庫県の閉鎖的な体質の前に誰もがそれを口にする事ができず、
「いや、やっぱり兵庫県産の肉は美味い」と言い張ってきました。

でも現実的に見れば答えは明瞭です。
仕事で枝肉の品評会などに出かけるのですが、
兵庫県産の牛と、鹿児島県など他府県産の牛の枝肉を比べてみると
肉質、肉のキメ、サシの入り方や枝肉重量など、
鹿児島県産の枝肉の方が圧倒的にクオリティーが高い仕上がりになっています。

もちろん神戸肉の中でも仕上がりの良い物は素晴らしい味がします。
その味たるや、他府県産が足元にも及ばないほどのものなのですが、
その割合は以前と比べると非常に低いものになっているのは明確です。

今後は鹿児島を中心とした九州の牛が市場に出回ってくると思います。
生産県としては宮城県、北海道あたりが台頭してくるでしょう。
「神戸肉だから美味しい」なんて言ってると笑われる日も近いかもしれませんね。


コラムNo. 4 【塩タン】

焼肉屋さんで注文する場合、最初に何を頼みますか?
「まずは塩タンから」 . . . って、何となく定番ですね。
「とりあえず最初は味の淡白な牛タンから」という意味で、
あるいは「網にタレの味が付いたら塩タンの味が変わるから」という意味で
塩タンを頼む方がいますが、僕はそうは思いません。

確かに一般的に出回っているタンは味が淡白でさっぱりとしています。
でも本当に良い牛のタンは非常に濃厚な味をしていて
タレで食べるカルビにも相当するほどのしつこさをしています。
本当に美味しいタンなら「まずは塩タンから」とはならないはずです。

それから僕が美味しい肉を食べたいと思うときには
肉をタレ付けで出してくるお店には行きませんので
いくら肉を焼いても網がタレで汚れるという事はありません。
だからいつタンを焼いてもタンの味がおかしくなるという事は無いんです。

「まずはタン塩から」は通でも何でもありませんね。

ちなみに市場に出回っているタンの9割は輸入物だといわれています。
残りの1割のうちのさらに数割がホルスタインと f1のもので、
最後に残った僅か数%だけが和牛のものだという事になりますね。
本当に美味しいタンを食べたいという方は
和牛のタン、もっと言えばメスのものを一度ご賞味いただきたいと思います。
間違いなくタンに対する認識が変わりますよ。


コラムNo. 5 【サガリとハラミ】

最近焼肉で人気のサガリとハラミ。
それぞれどこの部位でどういう役割をしているか分かりますか?
実は僕もよく分かりません。

ハラミは横隔膜なので左右に2枚付いているのですが、
サガリは文字通り「左半身の上のほうにぶら下がっている」部位で、
何のためにあるのか、どういう役割をするのかは未だ不明のままです。
まぁ知ったところでどうなるってものでもありませんが(--;)

サガリは幅10cm、長さ60cmほどの帯のような形をしていますが、
ハラミは幅15cm、長さ80センチぐらいの肉が
真ん中で折りたたまれて40cmぐらいになったような形をしています。
味はサガリに比べてハラミの方が若干濃厚で、
内臓独特の鼻に抜ける匂いもハラミの方が多い感じですね。
食べて分かるようになるにはかなりの年季が必要です。

( 上がハラミ、下がサガリ )


コラムNo. 6 【焼肉屋では並を食べる】

僕が焼肉屋に行くときは「高くても美味しいものが食べたいとき」か、
「安くても良いからとにかく肉を食べたいとき」に限られます。
「高くて美味しい」「安くて不味い」は納得できますが、
「高くて不味い」は許せませんね。
「安くて美味い」というお店は基本的に無いと思った方がいいです。

焼肉屋では基本的に並を食べます。
メニューに敢えて並と書いてあることは無いと思いますが、
要するに「上ロース」や「上カルビ」はあまり注文しないという事です。
お客さんはお金を払って食べに行くわけですから「高いものが美味しい」というのは当たり前、
逆に言えば上を頼んで大したものが出てこないような店はダメですね。
「並のグレードがどれだけ高いか」という点を見れば
その店の提供する肉のクオリティーは自ずと分かってくるというものです。

とはいえ、並と上とで驚くほど差があるお店もあるので
シッカリと見極めて注文するのが良いでしょう。


コラムNo. 7 【希少部位】

テレビの焼肉番組を見ていると
「1頭に○kgしか取れない希少な部位です」なんていう前フリの後に
大した事の無い部位がいかにも希少そうに出てくる事があります。
それもビックリするような値段で。

元々牛の組成が決まってるわけなので、
大きい牛だろうと小さい牛だろうと量の取れる部位は量が取れるわけですし、
量の取れない部位はどうやっても量は取れないに決まっていますよね。
ものの言い方一つでどうにでもなるという良い例です。

例えば「ミスジ」。
最近の焼肉ブームでちょっと名が知れた部位で
「1頭に1kgほどしか取れない貴重な部位で、とても柔らかくて . . . 」
なんて言われたりしますが、肉の真ん中にスジがある上、肉の臭みが強く、
おまけにどんなしょうもない牛でも比較的霜降りになりやすい部位なので
煮ても焼いても脂の味しかしない非常に不評な部位だというのが現実です。
いとこの店では「霜降りすぎてお客さんに出せんから食べてくれ」と
ミスジを貰ったりする事があるのですが、
貰ったところで煮ても焼いても食えないのでこっちだって困ります。

例えば「ほほ肉」。
関東では「ほほ肉」、関西では「ツラミ」といいますが、
これも真ん中にスジが入ってしまう特徴があり、
独特の食感と臭いがあるので焼肉には向かないと思います。
1人前800円、あるいはそれ以上の値段で出している店もありますが
小売店では100g当たり350円ほどで入手できます。
赤ワインで8時間ほど煮込めば素晴らしいシチューが出来ますが、
肉代よりガス代の方がかかるので割に合いません。

「こめかみ」
こめかみはツラミの一部でもありますが、
ツラミを骨から外すときに職人が取ってしまうので一般には出回りません。
1頭に付き4切れほどしか取れない、本当の希少部位ですが、
希少すぎて市場に出回らないので意味がありません。
一度だけ食べたことがありますが、
大した牛でもないのにビックリするぐらい柔らかくて美味しかったです。
口を動かす度に連動する部位だから肉の食感も良かったです。


コラムNo.8 【個体識別番号】

O-157やBSE問題などがあってから牛の管理が厳しくなってきました。
現在各牛には10桁の個体識別番号というものが与えられ、
産まれてから屠殺されるまでの全ての流れが分かるようになっています。
肉屋さんや焼肉屋さんに提示してある10桁の番号を下のホームページに入れてみてください。


【牛個体識別番号検索サービス】


ちなみにこれもあまり知られていない事ですが、
個体識別番号というのはロースやフィレなどのような単品に当てはまりますが、
ミンチや細切れなどに関しては個別の個体識別番号は必要ありません。
( 「こういう牛を使っています」的な表示は必要です )
また、タンやツラミ(ほほ肉)、サガリなどは肉ではなく内臓という扱いですので
これも個体識別番号を表示する義務はありません。
つまり、カルビやロースに国産和牛を使っているお店が
タンやサガリだけ輸入のものを使っていてもバレることは無いという事です。
騙されないように気をつけてくださいね。


コラムNo. 9 【牛肉の格付け】

牛肉の格付けは歩留まり等級と肉質等級で評価されます。
歩留まり等級はA〜Cの3区分、肉質等級は1〜5の5区分に分けられ、
さらに肉質等級は15通りに分けられます。
枝肉重量に対し、ロース芯面積が大きいとA
そこから小さくなるにつれてBCとランクが下がっていきます。
肉質等級はBMS(脂肪交雑、いわゆる霜降り具合)、肉の色沢、締まり、
キメ細かさなどによって相対的に決められます。

【格付け表】

2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
5
4
3
2


一般的にはA5ランクでは A5-8 から A5-12
A4ランクでは A4-4 から A4-7 という幅を持っているのですが、
A3ランクでは「ロース芯のランクは3、バラやその他のバランスは4」という場合があり、
A3-5という、飛び級的な格付けになるものもあります。
以下に兵庫県産牛の枝肉の画像を載せておくので比較してみてください。
( デジカメによる撮影ですので細かい部分の描写は実物とは異なります )
ただし共励会というセリでの価格ですので、普段のセリよりは高い価格となっています。


A5-9 「福芳土井×菊俊土井」  1kgあたり3145円。

ロース芯は細かいサシが綺麗に入り、全体のバランスも良いです。
全体的に光っているのは光の加減で、実際にはもう少し落ち着いた感じです。
画像左端の紙は「菊のご紋」と呼ばれるもので、
「代々兵庫県の血統で、兵庫県内で飼育され、格付けがA4-6以上」
という牛のみに与えられるものです。



A4-6 「照長土井×照義土井」 1kgあたり2485円。

上のものに比べると芯のサシが弱いのが分かります。
枝状の長いサシが見えますが、もう少し細かいサシの方が好まれます。
このランクまでは神戸ビーフ(神戸肉)と呼ばれますが、
ここから下は「但馬牛」「三田牛」など、別の名前で呼ばれることになります。



A3-4「光安土井×安幸土井」 1kgあたり2275円。

ロース芯のサシが少なく、バラ(画像左上)の厚みも薄くなっています。
「614」というシールが貼ってある左上の部分の肉を見ても、
上のものと比べるとサシが少ないのが分かります。
芯の形状が丸ではなくハート型なのも若干値段に影響します。



A2-3 「福芳土井×菊照土井」 1kgあたり1755円。

芯のサシもかなり減りますが、芯の上の部分は更にサシが無くなります。
画像左上の部分の厚みも薄く、サシは全くと言っていいほどありません。
画像には写っていませんが、バラのサシもほぼ皆無と言って良いほどでした。
全体的に水っぽく、締まりのない肉質になっています。



コラムNo. 10 【シコリ】

何十頭、何百頭も牛を飼っていれば当然色々と問題が出てきます。
出荷時にはどうみても正常な牛でも、枝肉になって初めて分かる問題もあったりしますが、
その中のひとつが画像のものです。

( 左半分がシコリになっています )

画像のロース芯は右半分と左半分でサシの入り方が違います。
左半分は周りに比べて明らかにサシが集中していますが、
これはいわゆる霜降りではなく、シコリと呼ばれるものです。
シコリは牛どうしが突き合いをしたり、あるいはいじめられたりしたときに
角で突かれたところに出来るといわれているのですが、
腫れがひどくない限り、外見では分からないことが多いので
実際に切ってみるまでは分かりません。
まだロース芯にシコリが出れば良いのですが、
芯に出ずに他の部分に出てしまうと購入者から苦情が出る可能性もあるので
しっかりと品物を見て仕切りをしなければいけないという事ですね。

ちなみにシコリは周りに比べて硬く、食べればすぐに分かるので
仕切りの時には減点対象になってしまいます。
牛がイライラしてケンカしないように、
広い、衛生的な牛舎で育てるのが一番の予防策ですね。


コラムNo. 11 【神戸肉万歳!】

日本が世界に誇る神戸ビーフ。
果たしてその実態はどうなのでしょうか。

神戸肉についてはコラムNo. 2で書いたのですが、
実際に牛を飼っている人間の間ではその評価はさまざまです。

2008年7月現在、牛肉市場は過去最低となっています。
少しでも血統がまともな子牛を買おうとすれば
メスで40〜50万円、去勢で50〜60万円ほどかかり、
その後1年半〜2年間の間に餌代と飼い賃で30〜40万円ほどかかります。
つまり、メスなら最低でも70万円以上で売れないと赤字になるわけですが、
A3-4で1kgあたり1500〜1600円、A4-5で1600〜1700円という相場では、
たとえ枝肉が400kgになったとしても60万円ほどにしかならず、
出荷すればするほど赤字になっていくという悪循環になっています。

それに対し、兵庫県産ならA3さえ出れば1kgあたり2000円は確実、
A4なら2500円、A5なら3000円以上と、
他府県の牛に大して1kgあたり500円以上高い価格で取引きされています。
これはただ単に「神戸ビーフ」という名前だけのもので、
実際に肉質を見ても他府県産と変わらないどころか、
かえって肉の生地が悪かったりすることもあるほどです。
では何故そこまで神戸ビーフがもてはやされるかと言うと、
「神戸ビーフを購入したときに貰える盾や賞状があれば購入店に箔がつく」という、
ただ一点のみだと思ってもらえれば良いと思います。
はっきり言って「食べて違いが分かる」というお客さんなんてほとんどいませんからね。

他府県産の牛には厳しい時代ですね。


まだまだありますのでドンドン更新していきます。